私たちの多くは、日常の中で「何か新しいこと」を求める一方で、古くから受け継がれてきたものに心惹かれることがあります。今回ご紹介するのは、その両方を叶える場所、「森長旅館」の物語です。国登録有形文化財という歴史的価値を持つこの旅館が、どのようにして現代に息づき、地域に新たな活気をもたらしているのか。その背景にある情熱と挑戦に迫ります。

旅館業への挑戦：文化財を受け継ぐきっかけ

森長旅館は、築95年を誇る国登録有形文化財です。土蔵造りの蔵、本館、離れの三つの建物それぞれが文化財登録されており、宿泊することでこれら全てを楽しむことができるのが魅力の一つです。前オーナーお一人での営業が難しくなり、建物の老朽化や宿泊者の減少なども伴い2006年に惜しまれながら閉業。 その後、オーナーの施設入居が決まり、引き継ぎ手を探していました。

そのような中、街の活性化事業に携わっていた株式会社SeeVisionsに、直接この旅館の話が舞い込んだそうです。旅館業は初めての分野でしたが、この貴重な文化財を守り、地域に貢献したいという思いから挑戦を決意し、事業がスタートしました。

サウナ事業との融合：小山様の新たな挑戦

小山様自身、元々個人でサウナに関わる活動をされていました。そんなタイミングで、代表の東海林氏から「一緒にサウナをやらないか」というお話をいただいたそうです。これを面白い案件であり、ご自身にとっても大きなチャンスだと捉え、森長旅館の運営に携わることを決意されたとのこと。小山様は責任者として、施設の準備設計に深く関わり、現在は少数精鋭のスタッフと共に旅館を運営されています。

森長旅館の強みと差別化のポイント

森長旅館の最大の強みは、その歴史的価値と、他にはないユニークな体験の融合にあります。 特に注目すべきは、文化財である土蔵をまるごとリノベーションして作られたサウナです。

この2階建ての大きな蔵は、青森ヒバを全面に使用しており、非常に雰囲気の良いサウナに特化した空間となっています。 秋田県内にはサウナに特化した施設が非常に少ないため、これは大きな特色です。

さらに、小山様自身が熱波師の資格を保有しているため、本格的な熱波サービスを受けることができます。 文化財とサウナというユニークな組み合わせが、独自の魅力を生み出しています。 こうしたニーズはあったもののそれに応える施設がなかったため、徐々に認知が広がってきているそうです。

困難を乗り越える道のり

森長旅館は、長年の老朽化により建物全体が大きく傷んでいました。そのため、当時の趣をできる限り残しつつ、安全性と強度を備えた新たな姿へと生まれ変わらせる過程は、想像以上に困難を伴いました。 限られた空間の中で、動線や間取りをどう設計するかについては、何度も議論を重ねました。中庭や池庭も長らく手入れされておらず、現在の姿に整えるまでには多くの試行錯誤を経て、ほとんどを人力で作り替えるという大変な作業でした。

なんとかプレオープンには間に合わせることができ、招待したゲストの皆様に生まれ変わった旅館を楽しんでいただけたことは、大きな喜びとなりました。 とはいえ、会社としてホテル運営は初の取り組みであり、おもてなしの体制づくりやサービスの仕組み構築は手探りの状態。周囲の方々から助言を受けながらも、価格設定やお客様の多様なニーズに応える難しさを日々感じているそうです。

地域への貢献と喜びの声

しかし、事業を通して大きな喜びも感じているとのこと。 森長旅館がある男鹿の船川地区は、これまで宿泊施設が不足していました。男鹿温泉郷までは車で30分かかる上に、冬場は閉鎖されるなど、観光地でありながら宿泊できる場所がないという長年の課題がありました。

そこに森長旅館ができたことで、地元の方々から「宿泊場所ができて本当に嬉しい」という喜びの声が多く寄せられているそうです。地域に貢献できているという実感が、小山様の原動力になっていることを、熱く語って下さいました。

今後の展望

森長旅館だけではなく、街全体が一つの宿となること（街宿）を目指し、地域活性化をしたいとのこと。そのために、まずは森長旅館を通じて集客をしていきたいとお話下さいました。主にInstagram（フォロワーは記事作成時点で約1900人、現在も増加中）を通じた認知拡大にも力を入れており、今後さらなる発展が期待されます。
また小山様個人としては、地域活性化のために自然を活用したアクティビティ施設を作ることが夢だそう。大人が元気だと子ども達も元気になると小山様はお考えだそうで、大人が全力で楽しめるような場所を作りたいというお話をして下さいました。

施設情報

• 所在地: 〒010-0511 秋田県男鹿市船川港船川栄町82
• 営業日:デイユース：平日15:00~22:00（最終入場20:00）/土日祝日　11:00~22:00（最終入場20:00）　 宿泊：チェックイン15:00/チェックアウト10:00
• 定休日:第二・第四火曜日
• お問い合わせ: TEL 0185-47-7716 / FAX 0185-27-8177　メールアドレス　moricho_contact@morichoryokan.com
• 公式サイト:https://morichoryokan.com/
• 公式インスタグラム:https://www.instagram.com/accounts/login/?next=%2Fmorichoryokan%2F&source=omni_redirect
• 公式Facebook:https://www.facebook.com/morichoryokan/

小山様から最後にお一言：引き継がれた旅館に新たな命を吹き込まれたように、訪れる方々に、旅館そのものを楽しんでいただくとともに、疲れた心と身体も、サウナを通じて癒され、リフレッシュされる——そんな場所でありたいと思っています。 男鹿を元気に、そして秋田をもっと魅力的で楽しい場所にしていくために、私たちの挑戦はこれからも続きます。